この年は、複雑で、移ろいやすく、緩急のあるヴィンテージでした。収穫時期は平地では早く(8月8日に開始)、高地では遅く行われました(10月8日に完了)。急ぎの時間と待つ時間とがあったため、収穫には苦労しました。収穫を2回行うことになったのです。
最初の収穫が終わりました。ブドウの果実から、何らかのインスピレーションが掻き立てられることはありませんでした。果実は美しいけれど、それ以上の何ものでもなかったのです。今年は平均的なヴィンテージになるのだろうか?という思いがよぎりました。そして、2週間後、2回目の収穫を行ったのです。すぐにセラーは芳しい香りで満たされ、何かが起きつつあることを感じさせました。
冬にたっぷりと霜が降りたことが、ブドウの風味に違いをもたらしたことは間違いありません。霜が降りる前に、ブドウの樹が芽吹きましたが、「寒いから、成長のスピードを早めよう。」となったようです。そして次に霜が降りた時、ブドウの樹は「寒いから、今度は、成長のスピードを遅くしよう。」と判断したのです。
結果的には、多分こういうことだったのだと思います。最初に白ワイン用のブドウを収穫し、それから2か月以上経ってから、ムールヴェードル種を収穫したのですが、それが変身を遂げたのです。瓶詰めを行った時は、平均的な出来になるだろうと思っていたのですが、テクスチャーのある芳香の高い果汁、密度の高いテクスチャーが姿を現したのです。この年は、非常に素晴らしいヴィンテージとなりました。伝説的なヴィンテージである2007年に匹敵するでしょう。
私達は、エスピラ・ドゥ・ラジリィの土地にヴェルメンティーノ種の苗木を植えました。隣人達には「何も育たないよ。」とからかい半分に言われていました。しかし、私は人生の先輩方と話すのが好きで、誰かが「20年前、ここには美しいブドウの樹があったんだよ。」と言うのを聞いていました。「最後に笑う者が勝つ」という諺があります。